吉井康文の絵本を楽しもう!

絵本を楽しもう! vol.19

いたずらこねこ

「 いたずらこねこ 」

( バーナディン・クック文 レミイ・シャーリップ絵 まさきるりこ訳 福音館書店 )

 1956年のアメリカの作品で、日本でも1964年に紹介されているので、もう60年も読み継がれています。48ページと絵本としては少々長いですが、裏表紙には読んであげるなら2才から、自分で読むなら小学校初級向きと書いてあります。幅広い年齢の子どもたちに愛されていると言えるのです。
 この絵本は驚くべきことに、23場面ある見開きが、すべて同じ背景で描かれています。定点観測のお手本とも言える絵本なのです。登場するのは、こねことかめの2匹だけ、背景には、小さな庭の池と垣根の一部のみの他は、余計なものは一切描かれていません。使われている色も、水の色を表すエメラルドグリーンと線画のブラックの2色で、殆どが余白という本当にシンプルな絵です。その上、限られた場所での動きなので、幼い子どもたちは、2匹に集中することができ、特にこねこの気持ちに寄り添うことができるのでしょう。
 原書のタイトルは「THE CURIOUS LITTLE KITTEN」まさに「好奇心旺盛なこねこ」なのです。この「Curious」は、絵本全般に渡って、重要なキーワードになっています。代表的なものとしては「CURIOUS GEORGE」(ひとまねこざるときいろいぼうし)が挙げられるでしょう。愛されるべく、知りたがり屋のおさるのジョージは、まるで子どもそのもの。好奇心こそ子どもの特権なのです。
 このこねこも、初めて出会うかめという生き物に興味津々。こねこの知らないかめの不思議な生態に、おっかなびっくりです。その驚きようと慌てようが見事に表現されています。かめの静とこねこの動の対比も楽しいです。小さな世界の静かなお話に、子どもたちは共感を覚え、何度読んでも飽きることはありません。

文・吉井康文

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