林明子さんの福音館あかちゃんの絵本「くつくつあるけのほん」全4冊のうちの1冊として1986年に出版されました。もう30年以上愛され続けてい ます。
まず表紙から見てみましょう。濃い紺色の背景に、黄色い輪郭の大きなまん丸お月さま。そこに目を閉じた、オレンジのほっぺと鼻の、赤ちゃん のような寝顔がリアルに描かれています。そしてタイトルが手書きのような白抜きの文字で、お月さまの上に並べられ、右下に「林明子さく」と小 さく墨文字で、まるで目立たせないように置かれているのです。
表紙を開き、もう一度タイトルが書かれているページを「扉」と言います。普通、ここには作者名と出版社名も入れられているのですが、この絵 本ではそれも省略されています。夕闇を表す、表紙よりくすんだ紺色を背景に、白抜きのタイトルと三角屋根の家のシルエット。窓にはまだ明かり が灯っていません。屋根に寝そべる猫の姿と左ページにもう一匹の猫。もう物語は始まっています。
次のページで夜を迎えます。背景の空は黒に近い紺。窓に明かりが点き、暖か味を与えてくれます。そしていよいよお月さまの登場ですが、その 表情の変化と月を見上げる2匹の猫の後ろ姿のシルエットに注目。文章は猫たちが語っているようでもあります。最後はお月さまの満面の笑顔。思わ ず赤ちゃんもにっこり。裏表紙の舌を出しているお月さまも見せてあげてください。この絵であかんべえを覚えた赤ちゃんも多いはず。やはり文字 は墨で読めないくらい。シリーズの他の3冊と比べてみてもわかります。赤ちゃんは絵に集中でき、お月さまとアイコンタクトがとれるのです。おや すみ前に最適な絵本の1冊。
文 吉井康文