1969年発行ですから、今年でちょうど50周年を迎えます。著者のせなさんのデビュー作である「いやだいやだの絵本」全4冊のうちの一冊です。「いやだいやだ」「にんじん」「もじゃもじゃ」も幼い子どもに大好評ですが、この「ねないこだれだ」はダントツの人気で、300万部を超えています。なぜこんなに愛され続けられているのでしょうか。
まずこの絵本が、子どもを怖がらせて早く寝かそうといったしつけの絵本でないということでしょう。せなさんがこの絵本を作ろうと思ったのは、当時の長男が水木しげるさんの「ゲゲゲの鬼太郎」を夢中で見ていたことがきっかけだそうです。おばけの世界は、幼い子どもたちにとって、決して怖い存在ではなく、怖いもの見たさを含む興味を惹かれる未知の世界、憧れの存在であるのかもしれません。だからこそ最後の場面の「おばけになってとんでいけ」に共感を覚える子どもたちが多いのです。しつけの絵本であるならば、おとなは好んだかもしれませんが、子どもたちからこんなにも大きな支持を得られなかったでしょう。
次に挙げられるのが、せなさんの絵本に共通する独特の手法である、貼り絵、それもちぎり絵を使ったやさしい線と温かみのある色彩です。貼り絵の材料も、広告のチラシや包装紙を使っているので、その素朴さが安心感を与えているのだと思います。
せなさんは、この後も数多くのおばけの絵本を出版していますが、「ねないこだれだ」を楽しんだ子どもたちには、「ばけものつかい」「くずかごおばけ」(いずれも童心社)「めがねうさぎ」「おばけのてんぷら」(いずれもポプラ社)などもお勧めします。
文 吉井康文