幼い子どもたちに大人気のロングセラー絵本の中に、食べることがテーマになっているものが多いことは、興味深いことです。「ぐりとぐら」(福音館書店)「はらぺこあおむし」(偕成社)「しろくまちゃんのほっとけーき」(こぐま社)などが代表的作品と言えるでしょう。今回の「くだもの」も、これを見てすぐにでも食べたくなる子どもが、本当に多いようです。
作者の平山さんは、主に植物を写実的に丁寧に描き、絵本も10冊ほど出版されています。特にこの「くだもの」は、幼い子どもに人気で、1979年に月刊誌「年少版こどものとも」で発表され、1981年に上製本になってから37年間で190万部以上発行されているのです。
まず表紙と裏表紙と扉(表紙を開けたところにタイトルが書かれているページ)に描かれているのがさくらんぼ。軸の影まで描かれていて、そのリアルなこと。でも本文(ほんもん─文章の部分)の中には、さくらんぼの絵もことばも出てきません。そして最初のページは、輝くような丸々一個の大きなすいか。左ページだけでは収まらず、右ページにはみ出しています。ページをめくると、お皿の上にカットされたすいかが、見開きいっぱいに瑞々しく描かれています。文章は「さあどうぞ」の一言だけ。次のももからは、左ページに果物の外観、右ページに食べられる状態にして「さあどうぞ」のパターンが続きます。最後のばななでは、皮がむかれていない状態で差し出されます。誇らしげにばななをむいた女の子の姿がラストシーンです。手を伸ばしたくなる子どもの気持ちがわかるでしょう。
同じ幼児絵本シリーズの平山さんの人気作品「やさい」「いちご」も読んでみてください。
文 吉井康文