1970年から出版が始まった「こぐまちゃん絵本シリーズ」は全15冊発行されました。日本の子どもたちがはじめてであう絵本をコンセプトに日本の色にこだわり6色が使用されています。また、こぐまちゃんのフォルムも日本の伝統工芸のこけしをモデルにしているとのこと。幼い子どもに一番人気のくまのぬいぐるみを主人公に、はっきりした輪郭と鮮やかな色彩が日本の子どもたちの眼を引き付けました。その中でもダントツの人気をほこるのがこの「しろくまちゃんのほっとけーき」です。1972年に発行されてから303万部を超えるロングセラーになっています。
幼稚園の年少組で読むと「だれかぼーるをおさえてて」の場面では、何人かが前に出てきて絵本のぼーるを抑えようとしてくれます。しろくまちゃんとこぐまちゃんが一緒にホットケーキを食べるところでは、絵本に描かれているホットケーキを食べようとします。また、しろくまちゃんが冷蔵庫から卵を取ろうとして落としてしまう場面を真似して困るという話も聞きます。それはまさに読み手は、絵本の世界に入り込み、主人公や主人公の友だちになって、行動を共にしようとしているわけです。
幼い読者は、物語を耳で聞いて、絵という文字を読みながら、絵本の中に自由に入り込みます。そして主人公たちと一緒に、ハラハラドキドキしたり、楽しくなったり悲しくなったり、心を動かしているのです。このことによって人の気持ちがわかったり、人の痛みも経験しているのです。絵本の醍醐味がここにあると思います。
文 吉井康文