「ハイハイ」を覚えた赤ちゃんは、初めて自分の力で、今までより広い範囲の世界を知ろうと動き回ります。それにおとなが「まてまてまて」と追いかけると、喜んで逃げ出すという遊びにつながっていくのです。よちよち歩きができるようになってからも、逃げ回る遊びは大好きです。つかまえてくれるという安心感が、幼い子どもたちの行動を大胆にさせるのかもしれません。
さて、この「きんぎょがにげた」は、一匹の小さな赤い金魚が金魚鉢から逃げ出す場面から始まります。広い世界に逃げる行為に、まず子どもは共感を覚えるでしょう。そして「どこににげた」と興味を引く見つけるという行為に移行していきます。子どもたちは探して見つけることも大好きです。それは、1987年の「ウォーリーをさがせ!」シリーズ(フレーベル館)や1990年代の「ミッケ!」シリーズ(小学館)の大ヒットからもわかります。「きんぎょがにげた」は「ウォーリーをさがせ!」より10年前の1977年に出版されていますが、他のシリーズとは違って、今でもこの一冊だけで毎年何万もの部数を重版しているのです。
五味太郎氏の鮮やかな色彩とバランスのとれたダイナミックなデザインもこの絵本の魅力です。見開きの右ページの右端に描かれている金魚が、次ページへと誘っているようです。このページをめくりたくなるというのも絵本の大切な要素になっています。
3~4歳になれば、1970年に出版された絵探し絵本の元祖とも言われる「とこちゃんはどこ」(松岡享子作 加古里子絵 福音館書店)もお勧めです。
文 吉井康文