作者の安西水丸氏は、1970年代より、小説、漫画、絵本、エッセイ、広告など多方面で活躍したイラストレーターです。この絵本は、1987年の作品ですが、たちまち幼い子どもたちに大人気となり、既に250万部を超える発行部数になっています。
まず表紙から感じられるのは、単純で簡潔、シンプルなフォルムと、限られた色ながら鮮やかな色使いで彩られたデザイン性です。タイトル文字のバランスもお見事。イラストレーターとしての面目躍如といったところでしょうか。
なぜ機関車なの?と思われるかもしれません。この絵本が出版された頃には、もう蒸気機関車は、観光用以外では走っておらず、身近な乗り物ではなかったのですから。しかし子どもたちはなぜか機関車の絵本が大好きです。「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」(バージニア・リー・バートン作1937)「ちいさいきかんしゃ」(ロイス・レンスキー作 1940)「きかんしゃトーマスシリーズ」(ウィルバートリー・オードリー原作 1946)「きかんしゃやえもん」(阿川弘之文 岡部冬彦絵 1959)など古くから愛され続けています。「おしいれのぼうけん」(古田足日 田畑精一共作 1974)にもミニ蒸気機関車デゴイチが登場していますね。
赤ちゃんにこの絵本が人気なのは、「がたんごとん」という擬音語でしょう。この繰り返しのリズムが心地よく響き、それにピッタリな絵はこの機関車しかありえません。2見開きで展開して乗客が増えていくパターンが4回続き、終点駅に到着する、全部で10見開きの絵本になっています。赤ちゃんが好きな要素が詰まっているのです。白い余白部分を多くとっているのも効果的です。23年後の2010年に、続編にあたる夏バージョンの「がたんごとんがたんごとんざぶんざぶん」も赤ちゃんに受け入れられたのは想像に難くありません。
文 吉井康文